「実験室:fontforgeをつかってAdobe Reader付属の小塚明朝を自分ごのみにする。」(「じめじめ団」提供『梅雨空文庫』内)に倣ってフォントを正字體に改造する方法に就き、以下に手順と調査結果とを記し備忘とす。初心者ゆゑに却って氣のついたところもあらうか。環境は、Windows XP Home Edition Service Pack 2で實驗したとする。
こちたき前置き説明に興味無き人は、飛ばして下準備に入られよ。言はでも知れたこと乍ら――以下、およそ正字とは
既に正字體フォントには、市販品ではサンセール『漢字道樂2』セットに含まれる「古典明朝」(實物未見)、申申閣の日本語變換ソフト『契冲』に
さて如上のフォントはTrueType
上記「実験室」に公開されたEucCidCid2.datはスクリプトに讀み込ませるためのコード變更表で、「できそこないの当用漢字字体絶滅版作成用」と自稱されてをり(ところで「できそこない」とは當用漢字に掛かる貶辭かファイル自體の出來映えを指す謙辭か?)、JIS包攝規準で別コードに分けてある字までも舊字に統一してしまふ(ex.亜:1125:4108→亞。同樣のコンセプトに據るトゥルータイプ・フォントに「UCX 古典明朝-W3」や有國智光作「真宗原典明朝」がある)。さればJIS第2水準までの中で新舊分離して共に備はる字は除外とし、誤脱を修補しつつ異體の字形差も勘案して私に改め、EucCidCid3.dat(CID正字化置換用 新舊異體字對照表)とした。
これを「Adobe-Japan1の漢字(部首画数順)」より撰定するに方り、各種漢和辭典はじめ『異體字字典』『漢字字体規範データベース』、『明朝体活字字形一覧』及び「精興社書体――ベントン母型―君塚正字」(森啓『活版印刷技術調査報告書 改訂版』所載)、「印刷標準字体」に據る例示字形(cf.岡崎浩「印刷標準字体とJIS」『備忘録』、上綱秀治「JIS2004制定時の変更点」『図書館員のコンピュータ基礎講座』)等を參考にしたが、ここで、何を以て正字とするか、搖れが出る。ほんの一例だが、即や既の偏は皀(白*ヒ)と白の左縱棒を延ばして横棒二本(白*(丨+二))とのいづれが正體か、節櫛卿喞廏慨概郷響嚮爵欝などまで統一しなくてよいか……等々、細かく見るほどに疑問百出しよう(cf.内田明「クワクチヤウWatanabe明朝プロジェクトの挫折もしくは潜行」)。逆に、この正字判定が一意に決まらぬ故に、オープンタイプ・フォントでのtradタグによる舊字置換に任せ切るわけにもゆかず(cf.NAOI(直井靖)「角川新字源の旧字体をAdobe-Japan1で再現してみる」『Mac OS Xの文字コード問題に関するメモ』2007-06-27)、かかる私撰の正字對照表をも提出する餘地がある次第。――固より、抛(拋)とか簒(篡)だとか、正字體がユニコード(UCS)には別に裝備されてゐながらJIS X 0213(2000JIS)にもAdobe-Japan1にも
CID正字化置換が濟んだOpenTypeフォントはその儘では問題があるので(後述)、TrueTypeフォント(TTF)にフォーマット變換して、不備無きやう處置する。
フォント作成ソフトに、FontForge(舊稱PfaEdit)を入れる。無償でダウンロード可であるが、もともとウィンドウズ向きアプリケーションでない所爲で、利用できるやうにインストールする迄がかなり難儀らしい。
そこで、「Windows版 fontforge 簡単 お手軽パッケージ」がある。惜しいことに作者(geocities/meir)が配布を止めてしまったため(二〇〇七年夏頃か)、「S60 3rd Edition私的攻略書/縦読みttfフォント作成備忘録」に示されたリンク先より入手する(16mb)。他に、lostware舊アップローダーにも分割して置かれてゐ、またファイル共有ソフトShareでも流通してゐることが檢索結果に見える。このパッケージのインストールや使ひ方の説明文は、消滅した舊配布元のページをThe Internet Archive Wayback Machineを通じて閲覽できる(文字化けするが、ブラウザーでエンコード設定をシフトJISにして表示させればよし)。で、“C:\fontforge”に設置したとする。
OpenTypeのStdでなくPro仕樣、
入手しやすいところでは、最上位規格であるAdobe-Japan1-6對應の「小塚明朝 Pro-VI R」(KozMinProVI-Regular.otf)があり、Acrobat Reader改めAdobe Reader 7.0以降のヴァージョンに附屬する日本語フォント・パックにて無償配布されてゐる。さらにVersion 8.0からは「小塚ゴシック Pro-VI M」(KozGoProVI-Medium.otf)が追加された。これらは、從來の「小塚明朝 Pro R」「小塚ゴシック Pro M」(Adobe-Japan1-4對應)に代る擴張版である。インストール濟みなら[スタート]メニューの[検索]からファイル名「KozMinProVI」で探せば見つかるが、大概、
ら邊のフォルダー内に置かれてあるから、コピーして任意の作業フォルダー内(FontForgeを設置したのと同じがよい)に移す。小塚明朝
これよりは、「小塚明朝 Pro-VI R」を材料とした場合を例に取っての説明とする。
フォント加工を補助する副用品として、以下五ファイルを提供する。ダウンロードして作業フォルダー(例、“C:\fontforge”直下)に置く。
保存したら、TTFcidcid.txtは擴張子を“.pe”に改め、別けてもTateCopyOTF2TTF.txtは、開いて作業フォルダーの指定など各自の環境に合せて變更してから、擴張子を“.vbs”に改名すること。
その他お望みなら改變は任意だが、前掲「実験室」にて特に「EucCidCid.dat のつくりかた」として、
日本語コード=EUC、行端コード=LF でなければならない(windows でも)。
空白をいれてはならない。
変更なしの行は、なくてもよい。
各行とも
亜:1125:4108のようにする。(ただし漢字は script 内では無視している)
との注意があるのは心得られたい。
まづfontforge.batをダブル・クリックしてFontForgeを起動する。黒いコマンド・プロンプト畫面が出て閉ぢたあと本體が現れる(時々起ち上がってくれないけどめげずに成功するまでbatファイルを叩く)。次に[新規]でフォントビューを開き、[ファイル]→[環境設定]→[スクリプトメニュー]でスクリプトファイルにTTFcidcid.peを指定する。それから[ファイル]→[スクリプトメニュー]より指定したスクリプトを選び、實行。何だか'name'テーブルがどうとか警告窓が出るけど氣にしない。
自働處理の進行に任せて置換し了るまで三分ほど待ち(その間、クリップ・ボードへのコピー機能は使用不可)、續いてTQKozMinProVI-Regular.ttf(TはTTF、Qは舊字の意)が出力されるのを確認する。範圍テーブルが不正と警告されるが、意味解らぬから氣にしない(♪みろよ青い空、白い雲〜)。しまひにFontForgeを完全終了、タスク・バー右端の通知領域にあるXmingアイコンを右クリックしてExit。
ウィンドウズ向けにしたFontForgeは不安定で、操作に失敗したりエラー終了することがある。下手すると再起動させるたび同エラーを繰り返す罠に嵌る。その場合、“.PfaEdit”フォルダーごと(乃至は“C:\fontforge\.PfaEdit\autosave”内の全ファイルを)削除してから、再びfontforge.batをダブル・クリック起動するとよい。但し、環境設定でのスクリプト・ファイル指定したのは消えてしまふので、やり直す。
ここでOTFで出力してよかりさうなものを、敢へてTTFにしたのはトラブルが發生するゆゑ(説明無用の方は飛ばして次節へ)。前掲「実験室」に書かれたスクリプトをOTFcidcid.txtとし、擴張子を“.pe”に變へてFontForgeで實行したとする。生成されたQKozMinProVI-Regular.otfをそのままフォント・フォルダーにインストールして文書作成ソフト等で使用しようとすれば、ブルースクリーン・クラッシュ、OS撃墜といふ恐ろしさ。抑もnameの警告が出てゐたし、FontForgeで「小塚明朝 Pro-VI R」を讀み込むとなぜか書體名が文字化けしてもゐたので、先にttfname3で名前を變更、化けさうな日本語(2バイト文字)を無くしてから、CID置換→OTF出力すると、インストールしても落ちはしない代り、今度はどうしたことか書體指定が印刷に反映されない。ワープロ・ソフトで試すと、一太郎では「ドラフト編集」でのみ有效で「イメージ編集」表示に書體の變化無く、Wordは逆に印刷レイアウトから下書き表示に切り換へようとするとフリーズしてしまって、強制終了(Alt+Ctrl+Delite)も利かなくなったり。畢竟、改造後はOTFでの利用は避けるが無難か。他に、CID置換後にOTFでもTTFでもフォント出力せずに、置換結果を保存(.sfd形式)しておく手も考へられる。スクリプト末尾の
Generate("QKozMinProVI-Regular.otf","",-1&0x880)
とある行を
Save("QKozMinProVI-RegularCID.sfd")
に代へれば可能な筈であるが、
Internal Error;
Bad reverse encoding
といふ注意が際限無く出て、強制終了せざるを得なくなる。一旦出力したQKozMinProVIb-Regular.otfをFontForgeに讀み込ませてから[ファイル]→[保存]でも、やはり同樣。もう打つ手が無い、よってTTF化する。――敍上、如何にして或種のフォントが作れなかったかを記した。もしスクリプトを見て何が惡かったかご指摘戴けると、有り難い。
しかるに、新たな問題が生ずる。FontForgeでは、OTFのTTF變換が容易にできる。即ち、メニュー[CID]→[単一化](Flatten)の後、[ファイル]→[フォントを出力](Generate)、オプションの上のセレクト・ボックスでTrueTypeを選擇し保存。ところがその際和文フォントでは、句讀點・括弧類などの約物や拗促音ほかの小書き捨て假名に縱書き表示用の
武蔵システム「縦書き専用文字」(『フォント入門』)によれば、一一二文字が縱書きグリフを持つ(例示はVersion2.5以前の舊MS明朝の場合か)。これを列べたのがtate112.txtである。しかしOTEdit(後出)で確認すると、そのうち以下五字(二つは罫線素片)の縱書きグリフが、小塚明朝系では呼び出せない(=存在しない)。
表示字形 | シフトJIS | ユニコード | 名稱 |
---|---|---|---|
‖ | 8161 | 2016(2225) | Double Vertical Line(Parallel To) |
“ | 8167 | 201C | Left Double Quotation Mark |
” | 8168 | 201D | Right Double Quotation Mark |
┼ | 84A9 | 253C | Box Drawings Light Vertical And Horizontal |
╋ | 84B4 | 254B | Box Drawings Heavy Vertical And Horizontal |
これは「A-OTF リュウミン Pr5 R-KL」(A-OTF-RyuminPr5-Regular.otf、二〇〇五年製)でも同結果だ――但し、「A-OTF リュウミン Pro R-KL」(A-OTF-RyuminPro-Regular.otf、二〇〇二年製)では右表中で縱書きグリフ無しは十字罫線二種のみだったのだが(この改變、「モリサワOpenTypeフォント AdobeJapan1-4(Pro)からAdobeJapan1-5(Pr5)への変更に伴う字形相違の資料」に記載無かった)。亦「ヒラギノ明朝 Pro W3」も同斷である――但し、五字に加へてもう一字ハイフン「‐」(全角取り・字面四分幅=ShiftJIS 815D/Unicode 2010)が要除外、縱書きグリフとの對應關係に齟齬ある故(ハイフンのコード指定でも半角歐字のハイフンマイナス「-」=sjis002d/uni2dが表示される。縱書き形はcid662に對してのみuniFE32.vert/cid7893=Vertical En Dashが呼び出せる)。
これら五字を削減して、tate107.txtとした。その一〇七字を讀み込ませて、KozMinProVI-Regular.otfからTQKozMinProVI-Regular.ttfへと自動的に縱書きグリフを組み込ませたらよい訣だ。が、初心者の限界か、どうもFontForgeでそれを仕組む手立てが編み出せない。百字ちょっと位なら手動で編輯してもいいかしれぬけれど、FontForgeで縱書き圖形を扱ふには、獨自のコードで以て移動せねばならず、對應番號を探すのがまた手間だし(cf.CIDtate107plus.txt)。そのうへ、JIS X 0213で追加された小書き假名の「か」「け」(=Unicode 3095・3096)等にも縱書き字形は用意されてゐるし、また、規格書「JIS X 0213附属書4 23.国内実装互換文字」に縱書きの例示字形が無い「明治」「大正」「昭和」「平成」の全角元號合字(uni337B〜337E)だってProフォントの實裝では縱書き形があるけれどTTF變換すると横書き形しか出せなくなるし(同列の「株式会社」の合字=uni337fはJIS外字)、さらに、「国内実装互換」に採られた十六種の全角カナ單位記號合字(㍉〜㌻)以外にもユニコードのCJK互換用文字にある同類多數(uni3300〜㌀㌁㌂.etc)には縱書きグリフがあるし……。初學者の手には餘る、博雅の士の教へに俟つ。
仕方無いから別のフォント・エディター、TTEditとOTEditとを入れる(武蔵システムよりダウンロード可)。シェアウェアだが三十日間は無料で試用できる。これなら、自働的に縱書きグリフを移し込むプログラムが書ける(と言ってこれも一から書けるでなし、曾て某掲示板で公開されたものに手を入れただけ)。兩ソフトをインストールしたら、まづTTEditの[ファイル]→[一括コピー]で、コピー元ファイルにTQKozMinProVI-Regular.ttfを、コピー先ファイルにTQKozMinProVIb-Regular.ttf(bを附けた)と指定し、コード種別はUnicodeを選び、OKを押す。
憾むらくは、かうしてTTEditで編輯可能にしたコピー版では出なくなる字があること。OTEditも同樣、未對應であるAdobe-Japan1-6との差分が消えるのは勿論、對應してゐるAJ1-4の範圍内でも二の字點(Unicode 303B=cid12106/12107)とか合字かな「より」(uni309F=cid12181)とかとか(2000JIS追加の字に弱いのかも)。一括コピー先をTTEdit用に提供されてゐる全Unicodeフォントにすればといふ案も浮んだものの、配布元ページに注意ある通り、縱書きで該フォントを埋め込みしたPDFが作成不能になるため、却下(Arial Unicode MSが縱組文書のPDF變換でエラーを起すのと同根か)。ゆゑにbを附しbetaの意とす。所詮は試作品、それでも改造前の原Pro-VIフォントと併用すれば大抵用は足せよう。ベータ版を脱するには、やはりFontForgeを攻略しなくては……。これまた、或種のフォントを作り得ざりし所以の第二なり。
一括コピーが濟んだら、先程ダウンロードして作業フォルダーに入れたTateCopyOTF2TTF.txtを“TateCopyOTF2TTF.vbs”に名前變更、ダブルクリックして實行する。自働作業が止んでから、保存。これにて縱書き對策終了。
ここまで自働スクリプトによって大體出來上がったのだが、なほ瑕釁を殘す。手動で直す。五件七グリフ(と、おまけ)を、下記の要領で――(これも自働化できるのかしれぬが初心者の俄勉強にて能くする所にあらず、熟練者に期待すべし)。
波ダッシュ「〜」(ShiftJIS 8160)にはUnicode301C(Wave Dash)が對應すべき筈(cf.矢野啓介「波ダッシュはチルダではない」、安岡孝一「WAVE DASH問題縁起」)。しかるに、uniFF5E(cid665/Fullwidth Tilde)が對應してをり、これがCID置換の實行以降、グリフ無しの空白となる。uni301CからuniFF5Eへとコピーして貼りつけてやる(Ctrl+A → Ctrl+C →→ Ctrl+V)。
なほ、シフトJISとユニコードとの相互對應に就ては、『増補改訂 JIS漢字字典』を引き、矢野啓介「JIS漢字とUCS (Unicode)の文字の対応・変換について」、川俣晶「シフトJISからUnicodeへの変換テーブルの相違」及び「XML日本語プロファイル 解説」を參照した。
全角マイナス記號「−」(sjis817c)にはuni2212(Minus Sign)が對應すべき筈なるに、uniFF0D(cid693/Fullwidth Hyphen-Minus)が對應してそのグリフが空白だ。これもコピーしてやる。なほ、矢野啓介「横線を使いこなす」參照。
sjis8161「‖」は雙柱(uni2016=cid666)が對應すべきに、數式用の平行記號(uni2225=cid15489/sjis81D2、縱書き字形無し)を割りつけたる實裝のフォント多し。平行(Parallel To)は右に傾いだ形でデザインされるやうで、例へば新「MS明朝」(msmin04.ttc、Windows Vista以降附屬、Version5.0)では、雙柱(Double Vertical Line)が鉛直線二本だった舊と變って、斜線で表示される。モリサワ製フォントの場合、「A-OTF リュウミン Pro R-KL」での垂直が、Adobe-Japan1-5仕樣の「A-OTF リュウミン Pr5 R-KL」になると斜めに改められた(cf.「モリサワOpenTypeフォント AdobeJapan1-4(Pro)からAdobeJapan1-5(Pr5)への変更に伴う字形相違の資料」)。大日本スクリーン製「ヒラギノ明朝 Pro」も右斜め。JIS X 0213:2004準據だとさうなるのか。でも不都合だから直してしまはう。
まづsjis8161=uni2225の横書き字形をTTEditで表示し、[文字情報]を開き、[横書き]タブで文字幅が設定値733であるのを文字高さと同値の1024となるやう、レフトサイドベアリングならびにライトサイドベアリングを共に51から196まで増す。次いでグリフを消去(Ctrl+A → Delete)。その上で.otfの「小塚明朝 ProVI-R」をOTEditで開き、cid666(uni2016の横書き相當)よりグリフをコピー→TTEditにて
またsjis8161につき縱書き字形は規格書に例示無けれど(cf.「JIS X 0213:2000 附属書4 表2 記述記号」)、雙柱(uni2016)には縱書きグリフ(水平線二本)をも具備せるフォント少なからず。されば上に同じく、OTF「小塚明朝Pro-VI R」のcid7895(uni2016の縱書き)よりコピーして補ふ。
FontForgeでのTTF出力時に、三點リーダー「…」(sjis8163/uni2026)の横書きグリフが、なぜか位置が下がって、横中心線上でなくベースライン上(...)に來てしまふ。歐文プロポーショナルのEllipsisといふ奴だ(cid124)。グリフを削除して、OTFのcid668からコピー&ペースト。ちなみに二點リーダー「‥」は問題無し。
TTEdit一括コピー時に、なぜか左右ダブル・クォーテーション・マーク「“”」(sjis8167/8168 uni201C/201D)の縱書きグリフ二つが勝手に造られる(しかもヘンな位置に)。消去し、ダブル・ミニュート「〝〟」(sjis8780/8781 uni301d/301f=Double Prime Quotation Mark、一名チョンチョン、ノノカギ)の縱書き形からコピーしてきて貼附けするとよい。
これらにシングル・クォーテーション・マーク「‘’」を加へた三種における縱書き字形の實裝の混亂に就ては、自作フォント配布サイト『Y.Oz Vox』が纏めてゐるので、その「引用符のグリフ」及び「引用符Sample」參照のこと。ただ、後者サンプル畫像で「小塚明朝 Pro L」のシングル・クォーテーション・マークとダブル・クォーテーション・マークとに縱書き字形が示されてゐるけれども、當方の環境では横書き字形しか出ないので不審である。就中シングル引用符に錯綜あることは、はあどわあく「クォーテーションマークのまとめ」(『なんでやねんDTP』2007-09-28追記)にも見られる。ついでに個人的な趣味でいへば、リュウミンの縱用チョンチョンはやや横に寢かせすぎ、その點ではヒラギノ明朝やイワタ明朝オールド(IWA明朝オールドPlus?)が好もしいし、IPA明朝の
おまけ、漢字の修正も一例をば。「寛」字(sjis8AB0/uni5BDB)は、正字「寬」(uni5BEC)でウ冠のなかの見に點を打つのはいいとして、艸冠樣の部分は異體あり、羊頭「卝」(卜を左右反轉させて對にし、横畫を貫かせない)に作る。『明朝体活字字形一覧』を引き照らすに、道光版康熙字典・築地五號二種・諸橋大漢和修訂版等がこの形を取る。しかしAdobe-Japan1でもこの異字形は用意してない。これを補はうには、既に字形は近似したcid20302のものに置換してあるので、ちょっと變形してやればよい(圖1・TTEdit修正前→圖2・修正後の寛)。字源に鑑みれば、同じく蔑・薨・夢・儚・獲・敬なども改刻候補ではあるも……。他、訂したき字あらば以下同樣、右に倣ふ。
一括コピーしたままでは書體名未設定なので、適當に命名する。TTEditなら、[設定]→[フォント情報]で[書体名]→[詳細]から書き込む。次に示すは、一例。
日本語用 | 英語用 | |
---|---|---|
ファミリーネーム | TTF正字體小塚明朝Pro-VIb R | TQKozuka Mincho Pro-VIb R |
サブファミリーネーム | Regular | Regular |
フォント識別文字 | 6.010;ADBE;TQKozMinProVIb-Regular | 6.010;ADBE;TQKozMinProVIb-Regular |
フルフォントネーム | TTF正字體小塚明朝Pro-VIb R | TQKozMinProVIb-Regular |
PostScriptネーム | TQKozMinProVIb-Regular | |
著作権 | Copyright c 1997-2006 Adobe Systems Incorporated. All Rights Reserved. | Copyright c 1997-2006 Adobe Systems Incorporated. All Rights Reserved. |
商標 | Kozuka Mincho is either a registered trademark or trademark of Adobe Systems Incorporated in the United States and/or other countries. | Kozuka Mincho is either a registered trademark or trademark of Adobe Systems Incorporated in the United States and/or other countries. |
バージョン | Version 6.010;PS 6.006;hotconv 1.0.41;makeotf.lib2.0.13380 |
フォント名を編輯するためには特にttfname3といふフリーウェアがあるので(二〇〇七年一杯で配布元消滅)、ダウンロードして作業フォルダーに解凍する。その改名の例はTQKozMinProVIb-Regular.xmlに示した。このXMLファイルと對應するフォントファイルTQKozMinProVIb-Regular.ttfとを、二つ一緒にttfname3.exeにドラッグ&ドロップすると、書體名を變更したフォント“TQKozMinProVIb-Regular_mod.ttf”が生成される。これを、使用フォントとする。
ttfname3は'name'テーブル書き換へ以外にもアセンダーやディセンダーの設定變更ができ、寧ろそれが、重要。なぜならTTEdit一括コピー後、[gjpqy]などディセンダー(ベースラインより下に出た部分)を有する英字では下端が切れて消えた状態で表示されてしまふ缺陷があるからだ。對處するにはディセント値を修正せねばならず、それにはTTEditだけでは間に合はずttfname3が要る。
元のOTFでは、OTEditで[フォント情報]→[メトリクス]→[詳細]と開けば判る通り、アセント・ディセント(OTF標準は880/-120)に別に「Windows用」といふ値が設定されてゐる。先のTTEditでの一括コピー時に、「コピー先フォントメトリクス」の項で「コピー元と同じアセント・ディセント」にチェックした儘だと901/-123、チェックを外すと880/-144で、コピーされるやうだ。と言ってもTTEditでは、このWindows用のアセント/ディセント値を表示する機能が無い。よってttfname3でフォントから書き出ししたXMLファイルをエディターで開いて見ると、始めの方が、
<Header
Ascender="901"
Descender="-123"
TypoAscender="901"
TypoDescender="-123"
WinAscender="901"
WinDescender="123"
AverageCharWidth="516"
Codepage1="4002009f"
Codepage2="dfd70000" />
といふ風になってゐ、このWinAscender / WinDescenderが要修正なのである。
何でも、「Windows の Ascent と Descent フィールドは、OpenType の仕様書であまりきちんと定義されていません」(FontForge説明書)とかで、たとへば他のフォントも參看すると左記の通り、設定値はまちまちだ。
書體名 | ファイル名 | WinAscender | WinDescender |
---|---|---|---|
小塚明朝 Pro-VI R | KozMinProVI-Regular.otf | 1317 | 340 |
小塚明朝 Pro R | KozMinPro-Regular.otf | 1075 | 272 |
ヒラギノ明朝 Pro W3 | ヒラギノ明朝 Pro W3.otf | 985 | 182 |
A-OTF リュウミン Pr5 R-KL | A-OTF-RyuminPr5-Regular.otf | 1160 | 277 |
MS 明朝 | msmin.ttc | 220 | 36 |
XMLファイルでこれらの値に書き換へて生成したフォントを、インストールし試驗してみた。「小塚明朝 Pro-VI R」での數値を入れると、表示・印刷ともディセンダーの缺けは無くなり、一見解決したかに思はれる――が、Adobe Acrobatを使って文書をPDFに出力してみると、半角英字が行の左方(縱組みに歐文混植の場合)に大きくズレてしまって使ひ物にならない。以下、「小塚明朝 Pro」の値では表示はよくPDFが少しズレ、「ヒラギノ明朝 Pro」はちょっとディセンダー底部が消えるがPDFはよし、「リュウミン Pr5」もヒラギノに同じ、「MS 明朝」は論外。引き續き數値をあれこれ加減し、結局のところ、アセントは元の儘にディセント値だけいぢって、
WinAscender="901" WinDescender="290"
に落ち着いた。これで一往、ディセンダーの下邊が見えなくなることも、PDFファイルに變換した時の描畫の亂れも、無くなったと思ふ。ただ全角英字では、縱組み時、ディセンダーのある字だけ下方に寄りすぎて次との字間が詰まる現象があって、これは直らない。まだ不具合あるやうなら各自宜しく調整せられたい。どういふ原理でこの設定値を算出すべきなのか解りかねる。
留意すべきは、一度ttfname3で書き換へしたフォントを更にTTEditで何か編輯して更新保存した場合、そのフォントは、ダブル・クリックすれば「有効なフォントファイルではありませんでした」とエラーが出るし、インストールしようにも「無効であるか、壊れています」と警告されて出來なくなること。これは、更新したフォントを先程用ゐたXMLファイルもろともttfname3.exeにドラッグ&ドロップして再生成すれば、使用可能に直る。ファイル名に附される“_mod”は削ってよい。
ついでながら、XMLファイルより問題の右二行をいっそ取っ拂ってみると、インストール中に「フォントが壊れている可能性があります」との警告が出て矢張り駄目だった。また、TTEdit一括コピー後のフォント・ファイルをFontForgeに讀み込ませて[エレメント]→[フォント情報](→[OS/2]→[メトリック])を見ようとすると、「問題が発生したため」云々とエラー終了してしまふ。何だか劍呑ではある。
バグ補正が濟んで上述のttfname3に吐き出させたフォントをインストールし、諸種のソフトでの表示、印刷、PDF作成(Acrobat以外でも可能)などを試す。何か支障が出たら詳細を記録する。氣づかぬ難點を報告してくれれば歡迎するが、多分解決法は教へられず、寧ろ教はりたい。
――と、ここまで電子フォント改鑄の段取りを書き留めてきたわけだが、以上は空文、實施に至るまじ。
何となれば。
Adobe Readerの「ソフトウェア使用許諾契約書」に曰く、「2.5.1 お客様は本ソフトウェアを修正、改変、翻訳したり、本ソフトウェアの二次的著作物を作成したりすることはできません」と。ここで言ふ「本ソフトウェア」にはフォントも含まれる。また、Adobe Acrobatの「使用許諾契約書」にある「14.7 フォント・ソフトウェア」以下の條項は、アドビ社によれば、同梱フォントが「Acrobatでの表示目的で付属されているフォントで」「Acrobatでの使用に限るといった内容」だと解釋されるさうな(NAOI「小塚明朝の'nlck'と'jp04'についてAdobeに聞いてみた」『Mac OS Xの文字コード問題に関するメモ 』2007-08-16、參照)。とはいへ、「本ソフトウェアとともにフォント・ソフトウェアを使用し、[……]出力することができる」(14.7.1)といふ許可の文言で、どう條文解釋したらそれ以外では禁止したといふ利用制限の意味を持たせられるのやら、チト合點がゆかぬが。論理學に言はずや、裏は必ずしも眞ならずと。
固より變造したフォントは非公開、私用の範圍に留めるつもりだったものの……。或人の曰く、「もしAdobe社から訴えられたならば、著作権法第30条第1項・私的複製翻案、第47条の2第1項・プログラムの著作物の複製翻案を抗弁として主張します。
もし発明特許にかかわる部分があれば、特許法第69条第1項・試験研究のためにする実施もあわせて主張します。
これらは利用許諾契約の内容がどうこう以前の著作権/発明特許権自体の制約のはなしです。」――別にまた某者曰く、「しまった。そもそも使用許諾契約なので、使用権、以外のすべての権利は無いんだった。
著作物(フォント)を契約している間、リース、レンタルさせてもらっているって考え方だと思う。著作物の所有権はフォント会社の物。
てことは、著作権法に、「プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等」って項目があって、
著作物の所有者は私的な複製ができるってなってるんだけど、所有権が無いので意味が無いな。
な、なんだってー(AA略)
って気分なんだが。」……さうなのか? 其れ然らむ、
なほまた、TTEdit・OTEditのヘルプ中「その他」に曰く、「試用期間を経過しても未送金の場合、作成したファイルを使用することは許可されません」と。三十日の試用期間が過ぎたら完全アンインストールして再試用するってのは……駄目か。ケチケチせず購入してあげようやって? もちっと全コード近くまで編輯可能に對應してくれたらなあ。
兎まれ以上、拙文に「余は如何にして或種のフォントを作り得ざりし乎」と副題せる所以、斯くの如し。――言はずもがな乍ら、内村鑑三よりもレーモン・ルーセルの